
立秋とは、春分の位置を0°とした場合の地球から太陽の見える位置の角度(黄経という)が 135°になる日で、夏至(黄経90度)と秋分(黄経180度)の丁度中間の日なのだそうです。
「立秋」の文字を見て、「秋」なのにこの暑さはどういうことかと思いがちですが、立秋は単に夏(夏至)と秋(秋分)の真ん中ということ。暑いのも仕方のないことかも知れません。
とはいえ、それでも秋が近づきつつあるのは確かです。JN協会のサイト(ホームページ)の中に埋もれていた秋の記事がありましたので再掲載してみました。
気持ちだけでも一足早い秋をお楽しみください。
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リンゴの風景( 信州の旅 )ー
まちに人が訪れる そこから観光が始まるー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まちに人が訪れる そこから観光が始まるー
一般道をバイクに乗って、ただひたすら走る一人の旅が楽しい。幾度も幾度も信号機につかまりながら、ゆるゆる一人で走るのが楽しい。
自動車の旅も鉄道の旅も、そして仲間たちとの旅もそれはそれで楽しいものではあるが、バイクの一人旅にはそれとは違う深い楽しさがある。

高速道路はフェンス( 壁 )の向こう側に町がある。一般の道路なら、すぐそばに町がある。バイクを停めて足を下ろせば、そこは旅先の町。その町の薫りがするし、ヘルメットを脱げばその町の言葉が聞こえる。自分の足で立っている、そこだけの風が吹き、そこの町並みに浸ることができる。
旅先で出会う 《 偶然 》 がまた楽しい。
お世辞にも美味しいと言えないラーメンに遭遇したり、その土地で出会った見知らぬ人と話をするのも楽しい。
旅人の私も、その町で出会う人たちも、約束があって出会うわけではない。
ただ、 偶然 に出会うのだ。
偶然出会っただけなのに、お茶を出してくれる人がいれば、漬物を食べさせてくれる人もいる。さらには「ちょっと待って!」と、おにぎりを幾つも握って 「あとで食べなさい」と持たせてくれる人もいる。終いには「泊まっていきなさい」と家に招いてくれる人たちもいる。
偶然 と出会いがあるから、旅は楽しいと私は思う。
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ある年の秋も深まった日のこと、信州に出かけた。
若いころの話だ。私の旅ではいつものことだが、宿は予約していない。

若い頃、目的のない旅が好きだった。何が待っているかわからない
旅はエキサイティングだ。だからというのも少々強引だが、いつも
予約をすることもなく飛び込みで宿に泊まった。
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宿を予約すると、宿が目的になってしてしまう。
「 目的のない旅だ 」 と言いながら、必ずそこには予約し
た宿に向かうための行動や道を辿る自分がいる。
「これを食べると宿の食事が食べられなくなる」とか、
この道順で行けば無駄なく宿まで辿り着ける・・・とか。
気付かぬうちに、自由なはずの旅の行動は制約されてし
まっている。
もちろん、素敵な宿に泊まることが旅の目的のひとつな
らばそれはそれで良い。だが、この頃の私の旅にその
目的は含まれていなかった。「宿泊先の予約」自体が
旅の自由に足かせをはめるものだったからだ。
結局、自由な旅というものを突き詰めた先にあったのは、
旅館やホテルといった宿泊施設を排除した旅だった。
そう、野宿をしながら日本を一周するという、若者だった
からこそできた楽しい旅である。
野宿と言うものはとても楽しいものなのだが、その話は
またの機会にしたい。
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そんな調子で宿も決めずに訪れた信州のとある町。とっぷりと日も暮れた頃、いつものように通りすがりの小さな旅館に駆け込んだ。
「素泊まりをお願いできますか?」
宿の女将は嫌な顔ひとつせずに快く泊めてくれた。泊める側からすれば至極迷惑な話だろう。
そして翌朝。日の出を待って朝食も摂らず宿を発とうとする私に女将が声をかけてくれた。
「途中で食べてくださいな・・・」
その手には真っ赤なりんごがひとつ。

お礼もそこそこに宿を出た。お礼を上手く伝えたいという思いは山よりも大きい。しかし、対人恐怖症と思われる私は人と向い合うと信じられないほど緊張してしまう。私のお礼下手の原因はそこにある。
緊張と、申し訳なさと感謝を胸に、今日はこの町を1日かけて歩きまわる。できるなら早い時間に沢山まわりたい。陽光の射角が低い時間は表情の豊かな写真が撮れる。
見事な城と素敵な城下町。歴史が幾重にも積み重なっているこの町は、見る・聞く・話す。そして食べる。そのすべてが楽しい。
陽が高くなった頃だった。町外れのガソリンスタンドに立ち寄った。なんと、ここでスタンドのご主人から差し入れをもらってしまった。
「途中で食べるといいよ」と・・・・真っ赤なりんごがひとつ。
朝、女将からもらったりんごはポケットの中。
真っ赤なりんごがふたつになった。


町かどにバイクを停めてしばらく歩いていると、いつものことだが地元のお婆ちゃんと親しくなった。あれこれと世間話のようなものを30分くらいはしていただろうか。
別れ際にお婆ちゃんが、持っていた手提げの中からひとつ取りだして私の手に載せてくれた。
真っ赤なりんご。
お婆ちゃんはどこか懐かしい笑顔で「また会いましょう」と言ってくれた。
秋の信州。両手で包んだ真っ赤なりんごが冷たかった。



この町では、秋に人を見送る時にりんごを手渡すことが習慣なのだろうか。
「そんなことはないだろう」と思っても、もしそうだとしたなら、なんて素敵な町なんだ。
楽しい旅。偶然の出会い。
旅は常に温かい思いを私たちの心に届けてくれる。その思いを求めて旅に出る人も少なくはないだろう。
旅人が幸せになる観光資源とは何だろう。
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・・・・・・・・・・・スタッフ I
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